
会社を起業する時に、最初に考えておくべきことの一つが「役員報酬」です。役員報酬は、法人税法上の損金として認められるため、節税効果を期待できます。しかし、役員報酬は適切な金額を正しい方法で決定しなければ、節税効果は得られません。経営者が独断で役員報酬を決めてしまうと、税金や法律上のトラブルに繋がる可能性が高いです。
そこで、この記事では、役員報酬の種類や決め方、そして役員報酬による税金対策のポイントについて解説します。
目次
1.「役員」に該当する役職について
「役員」の範囲は法人税法で定められており、法人の取締役・執行役・会計参与・監査役・理事・監事及び清算人が該当します。それぞれの概要は次の通りです。
取締役 | 会社の業務執行を行う役職。会社法では、株式会社に設置が義務づけられている。 会社の代表権を持つ「代表取締役」、代表者を補佐する「常務取締役」「専務取締役」「社外取締役」などさまざまな種類がある。 |
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執行役 | 取締役に代わって会社の業務執行を行う役職。 会社法では、「指名委員会等設置会社」には執行役の設置が義務づけられている。 |
会計参与 | 会社の計算書類を作成する役職。設置は任意。 公認会計士(監査法人)税理士(税理士法人)でなければならない。 |
監査役 | 取締役や会計参与の職務の執行を監査する役職。 通常、設置は任意だが、公開会社など一定の条件の会社では設置が義務づけられている。 |
理事 | 一般社団法人の運営を任されている役職。株式会社の取締役に相当する。 |
監事 | 一般社団法人において理事の業務を監査する役職。株式会社の監査役に相当する。 |
清算人 | 一般社団法人において清算事務を執行する役職。 |
2.役員報酬とは?従業員給与・役員賞与との違い
一口に役員報酬と言っても、法律上はいくつかの種類に分類されています。役員報酬の種類によって、法人税法上の損金として算入されるか否かが異なるため、それぞれの違いをふまえて、報酬を決定することが重要です。
ここでは、役員報酬の概要と従業員給与や役員賞与との違いを解説します。
2-1.役員報酬の種類
役員報酬とは、法人が役員に対して支払う報酬のことです。役員報酬は「労働への対価」ではなく、「利益の配当」という性質があるため、従業員に支払われる残業代や手当などはありません。法人税法では、損金算入できる主な役員報酬として、「定期同額給与」「事前確定届出給与」「利益連動給与」の3種類があります。
定期同額給与 | 毎月同額の報酬を支払われる。 一般的に「役員報酬」と言えば、定期同額給与のことを指す。 毎月同額を払うことで、損金算入できる。 |
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事前確定届出給与 | 従業員の賞与(ボーナス)のような形で支払われる。 事前に税務署に届出書を提出し、支払時期と金額を申告することで、損金算入が認められる。 |
利益連動給与 | 会社の業績に連動した報酬が支払われる。 損金算入するためには、下記の要件を満たす必要がある。
原則、株式の50%以上を親族で所有する同族会社には、役員報酬として適用できない。 |
役員報酬の金額や算定方法は、会社法361条に「定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める」と決められています。従業員給与は、経営者が自由に増・減額できますが、役員報酬の増・減額は株主総会の決議を経なければなりません。
2-2.役員報酬は「従業員給与」「役員賞与」と何が違う?
「役員報酬」と「従業員給与」では、税務上の取り扱いが大きく異なります。
- 役員報酬:原則、定期同額でなければ、損金算入できない。
- 従業員給与:不当に高い金額でなければ、全額損金算入できる。
役員報酬は、従業員給与と違い、雇用保険料の徴収がありません。雇用保険は、労働者の失業に備えた社会保険の制度であるため、経営者である役員はその対象外です。
役員報酬には、役員賞与や退職給与が含まれます。役員賞与とは、役員に対して臨時的に支払われる報酬です。また役員には、通常の従業員と同様に退職金を支給できます。ただし、法人税法上、「事前確定届出給与」以外の役員賞与は、損金算入できません。
3.役員報酬の「決め方」と「節税を目指す際の注意点」
役員報酬の金額は、経営者がいつでも自由に決められるものではありません。会社法や法人税法によって、役員報酬の決定方法が定められています。また、税務署から役員報酬の金額が、不当に高いものと判断された場合は、その分の損金算入ができません。
ここでは、役員報酬を決める時のルールと上手な節税のポイントを紹介します。
3-1.役員報酬の決定・変更方法
役員報酬の金額は株主総会で決議されますが、会社法や法人税法などの法律で定められたルールに基づいて、決定・変更する必要があります。役員報酬の決定方法を定めている法律が、会社法です。一方、役員報酬の損金算入など税金上の取り扱いは、法人税法で定められています。役員報酬の決定・変更上の注意点は、下記の5つです。
①毎月同額(定期同額)にする
役員報酬の基本は「定期同額給与」です。一定期間ごとに同じ金額が支払われることで、法人税法上の損金に算入できます。額面金額と手取り額が同一であることも条件です。
②会社設立日から3ヶ月以内に設定する
法人税法上の定期同額給与として認められる条件として、会社設立日から3ヶ月を経過する日までに金額を決定しなければなりません。
③役員報酬は定款または株主総会で決議する
会社法では、役員報酬の金額や算定方法は、定款または株主総会の決議によらなければならないと決められています。株主総会では、「役員報酬の総額」「その内訳を取締役会または代表取締役が決めること」を決定することが一般的です。株主総会や取締役会での内容は、必ず議事録として記録する必要があります。
④会社設立時または事業年度から3ヶ月以内に変更する
定期同額給与の金額を変更したい時には、会社設立もしくは事業年度開始日から3ヶ月以内に変更しなければなりません。
⑤役員賞与を支給する場合は届出を出す
税務署への事前届出がない場合は、役員賞与は法人税法上の損金に算入できません。損金算入できる「事前確定届出給与」として報酬を受け取るためには、税務署に下記の提出期限で届出る必要があります。
- 通常は、会計期間開始日から4ヶ月以内
- 法人設立の場合は、2ヶ月以内
- 株主総会などで役員賞与を決議した場合は、1ヶ月以内
3-2.役員報酬を損金(経費)にして節税したい時の注意点
役員報酬を損金算入すると、課税対象となる法人利益を減少させられるため、法人税の節税効果があります。ただし、役員に対する報酬全額が損金計上できるわけではありません。節税のためには、損金算入できる「定期同額給与」「事前確定届出給与」「利益連動給与」の条件を満たすよう注意しましょう。
役員報酬を決める時には、税金以外に社会保険料についても気を付ける必要があります。「定期同額給与」などの役員報酬は金額が増えるごとに、支払う社会保険料も増えますが、役員賞与の社会保険料には上限が定められているため、社会保険料の節約が可能です。社会保険料を抑えつつ、損金算入が利用できる「事前確定届出給与」を役員報酬に組み込むことで、節税効果が高められます。
ただし、適切な方法で手続きを行った場合でも、不当に高額な役員報酬を設定すると、損金として税務署から認められません。役員への報酬が適正額か否かの基準は、実質基準と形式基準の2つがあります。
実質基準 |
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形式基準 | 定款または株主総会などの決議によって定められた支給金額を守っているか、作成された議事録などによってチェック。 |
以上の基準によって、税務署が役員報酬の適正さを判断します。基準を超えていると判断されると、会社の法人税額が増えるため、基準内の金額にして節税しましょう。株主総会や取締役会を行う際は、税務署に適切な手続きを踏んで、役員報酬を決めたことを証明するために、議事録をこと細かく残しておくことが大切です。
まとめ
正しい方法で適切な金額の役員報酬を設定し、損金算入することは、企業にとって効果的な節税対策となります。ただし、不当に高額な設定を行ったり、適切な手続きを踏まずに、役員報酬を設定すると、損金算入が認められません。
役員報酬は従業員給与とは、法律上の扱いが異なります。従業員への給与と同じ感覚で、役員報酬を決定すると、税金や法律上の問題となることも少なくありません。少しでも役員報酬について不安を感じている場合は、税理士などの専門家に相談して、事業計画の立案を行うことをおすすめします。
この記事の執筆者

久田敦史
株式会社ナレッジソサエティ 代表取締役
バーチャルオフィス・シェアオフィスを通して1人でも多くの方が起業・独立という夢を実現し、成功させるためのさまざまな支援をしていきたいと考えています。企業を経営していくことはつらい面もありますが、その先にある充実感は自分自身が経営をしていて実感します。その充実感を1人でも多くの方に味わっていただきたいと考えています。
2013年にジョインしたナレッジソサエティでは3年で通期の黒字化を達成。社内制度では週休4日制の正社員制度を導入するなどの常識にとらわれない経営を目指しています。一児のパパ。趣味は100キロウォーキングと下町の酒場めぐり。
【学歴】
筑波大学中退
ゴールデンゲート大学大学院卒業(Master of Accountancy)
【メディア掲載・セミナー登壇事例】
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