私募債とは?メリット・デメリットと発行から償還までの流れを紹介

2019年05月31日
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企業が、まとまった資金を調達する方法として、「私募債」という選択肢があることをご存知でしょうか。中小企業の資金調達といえば、銀行融資が代表的です。しかし、銀行から融資を受けるためには、保証人や担保を用意し、厳しい審査を通過する必要があるため、中小企業がスムーズに利用できるとは限りません。中小企業が、手軽・低コストで資金調達できる方法が、私募債です。

この記事では、私募債の概要、資金調達に使うメリット・デメリット、発行から償還までの全体像について解説します。

1.私募債とは何か?

私募債とは、企業が発行する社債の一種で、読み方は「しぼさい」です。

社債は企業が発行できる債券であり、個人事業主は発行できません。株式会社が発行する株券と似ていますが、株券は株主としての権利を示すものであるのに対して、債券は金銭を企業に貸したことを証明する借用証書です。

企業は、社債を投資家に販売することで、資金調達が行えます。販売した社債は、償還期限を迎えると、発行した企業は投資家に元金を一括で返還しなければなりません。利子の支払い方は、償還期限までに定期的に支払う方法、元金と一括で利息を支払う方法など様々です。

企業が発行する社債は、私募債と公募債に分かれます。公募債は、証券会社を通じて広く投資家を募るものです。公募債は大規模な資金調達が行えますが、法律により厳しい規制が設けられています。公募債を発行する時には有価証券届出書の提出が必要です。発行後も社債管理者を設置して、債権者の保護に努めなければなりません。

一方、私募債は公募という形式を取らず、募集対象を限定して発行する方法です。基本的に、少数の投資家が社債を直接引受けることが特徴で、公募債に比べると、比較的規制が緩やかとなっています。有価証券届出書の提出は不要であるため、社債管理者が設置されるケースは多くありません。

1-1.私募債の種類

私募債は、「少人数私募債」と「プロ私募債」の2種類に分かれています。それぞれの違いは、募集対象の限定方法が異なる点です。また、発行総額や一口あたりの額面も、少人数私募債とプロ私募債では、異なります。

少人数私募債
発行対象・人数 50人未満
(譲渡制限が必要)
発行総額 1億円未満
一口あたりの最低発行額 1/50以上
プロ私募債
発行対象・人数 機関投資家のみ
(人数制限はなし)
発行総額 なし
一口あたりの最低発行額 なし

少人数私募債は、発行後の所有人数を50人未満で維持するため、譲渡制限を設ける必要があります。基本的に少人数私募債の発行対象は、債権者数の管理を行うために、経営者の親戚や友人、取引先などの縁故者とするケースが多いです。

2.私募債のメリット・デメリットとは

公募債や銀行融資、個人間の貸し借りと比べて、私募債には「手軽でコストが低い」というメリットと「資金繰り目的では使えない」というデメリットがあります。私募債は、発行コストが低いため、中小企業が新規事業の投資資金を調達する方法として、ふさわしいと言えます。

ここでは、私募債を活用するメリット・デメリットを詳しく解説します。

2-1.私募債のメリットは「手軽でコストが低いこと」

私募債のメリットは、金融機関からの借入や公募債よりも手軽に低いコストで、個人間の取引で起こりやすいトラブルを避けて、資金調達ができることです。私募債の資金調達コストが低い理由としては、次の4点が挙げられます。

①保証人や担保が必要ない
金融機関からの借り入れと違い、私募債を発行する際には、保証人や担保を設定する必要がありません。

②発行に掛かる手数料・手間が少ない
私募債は、公募債と比べて、発行に掛かる手数料や手間が少なく済みます。公募債の発行に必要な有価証券届出書の提出が、私募債では必要ありません。有価証券届出書は書式が複雑で、作成には司法書士などの専門家に依頼することが一般的です。しかし私募債では、有価証券届出書を作成する費用・手間を削減できるため、発行コストが低く抑えられます。

③償還期限や方法が柔軟に決められる
私募債は、金融機関からの借り入れと違い、直接金融であるため、償還期限・方法・利息などを借り手の側が任意で設定できます。もちろん、あまりにも発行企業本位な設定では、社債購入者を集めることはできませんが、購入希望者と交渉しつつ、柔軟な社債の償還期限や償還方法の設定が可能です。

④形式化しているため安心して貸し借りできる
個人間のお金の貸し借りと比べて、私募債は発行側・投資家側の双方が安心して取引が行えます。個人間の貸し借りでは、単なる口約束や一筆入れるだけのケースが多く、法律上の有効性が曖昧な取引が少なくありません。私募債では、作成するべき書類や決めるべき条項が決まっているため、「貸した・借りてない・いつ返す・利息はいくら」といったトラブルを未然に防げます。

2-2.私募債のデメリットは「資金繰り目的では使えないこと」

私募債のデメリットは、資金繰りを目的としては活用できないことです。資金繰りを目的に私募債を活用できない理由は、下記の3点が挙げられます。

①元金の一括返済が必要である
私募債は、償還期限を迎えると、債務者は元金を一括で、債務者に返還する必要があります。現段階で資金繰りに問題がある場合は、私募債の発行は一時しのぎとはなりますが、問題の本質を解決することにはなりません。

②財政状況が悪いと発行できない
企業の財政状況が悪い場合は、私募債の発行ができません。私募債を発行するためには、公募債よりは易しいものの、純資産額や自己資本比率などの適債基準をクリアする必要があります。財政状況が悪化し、資金繰りに問題を抱えている企業には、私募債の発行は困難です。

③「銀行保証付私募債」「信用保証協会保証付私募債」には手数料が必要である
私募債の発行に、銀行や信用保証協会の保証を利用すると、財務代理人手数料などの手数料が発生します。債権者に対する利息の支払いも必要であるため、銀行などの保証を利用した社債発行には、二重の費用を支払わなければなりません。

このように、私募債はキャッシュフローの改善や運転資金調達を目的として、活用することは難しいです。しかし、現在の資金繰りではなく、新たな事業の投資資金を効率的に調達するためには、私募債が向いています。

3.私募債の発行から償還までの全体像

私募債(少人数私募債)の発行から償還までの全体像は、以下の流れで進みます。私募債発行は、全体で8工程に及ぶため、スムーズな資金調達のためには、スケジュールを意識しなければなりません。

①事業計画・募集要項・勧誘書類の作成
まず目的となる事業計画を立てる。
事業計画を作成することで必要な資金・期間が明確となるため、そこから募集要項・勧誘書類を作成する。

②社債発行の決議
私募債の発行は、社長一人の独断では行えない。
資金調達は経営における、最も重要な事柄であるため、取締役会もしくは株主総会の決議が必要。

③社債引受人の決定
社債引受人の人数は、少人数私募債では49人以内。
社債の勧誘を行っただけで、引受人数としてカウントされるため注意。

④社債取得者の勧誘・申込の受付・審査
決定した社債引受人に対して、取得勧誘を行う。
最大で49人が相手となるため、ほとんどは説明会形式での勧誘となる。
購入希望者には、社債取得の申込受付を行うとともに、社債引受について誤って理解していないかを審査する必要がある。

⑤発行総額の決定・募集決定通知書の作成
勧誘が終了すると、社債引受人の総数・発行総額が決定される。
募集決定通知書に受け付けた社債の口数・金額と振込口座を記載し、申し込んだ人に送付する。

⑥申し込み金額の受領・社債券の発行
社債引受人から、社債の購入金額が振り込まれる。
金額の受領漏れがないよう、厳密な入金管理が必要。
申し込み金額を受領後は、社債券を発行する。

⑦社債原簿の作成
社債引受人の情報を記録するため、社債原簿を作成する。
社債原簿は、「社債引受人の住所・氏名などの個人情報」や「購入した社債の口数・金額」、「発行日・償還期間」を記した書類。
会社法で作成が義務付けられているため、忘れず作成しなければならない。

⑧社債の償還
償還期間を迎えると、各社債引受人に元金を返還する。
社債の償還が終わることで、私募債をめぐる工程はすべて完了。

「銀行保証付私募債」や「信用保証協会保証付私募債」では、発行時の必要な事務作業や買い取りは、銀行などの金融機関が行います。そのため、発行企業の事務手続きは少ないです。ただし、事務作業や引受人探しを銀行が行う代わりに、銀行へ手数料・保証料の支払いが必要となります。

まとめ

私募債は社債の一種で、引受人数を50人未満に制限する「少人数私募債」と引受人を機関投資家に限定した「プロ私募債」があります。公募債に比べて私募債は、手軽・低コストに発行できることが魅力の資金調達方法です。

ただし、現時点での資金繰りを改善する目的では、私募債を活用できません。あくまで私募債は、新たな事業を始めるための資金調達が目的です。
新規事業や技術開発のために、効率的な資金調達を行いたいと考えている会社は、私募債の活用を検討しましょう。