
近年、新たに設立した会社などで「合同会社」の名前をよく見聞きするようになりました。合同会社は、2006年5月の新会社法により導入された比較的新しい会社形態です。今では、法人成りや起業で会社を設立する場合に「合同会社」の選択肢も有力といわれています。
この記事では、合同会社について、その成り立ち、株式会社との違いやメリット・デメリットなど、基本的な内容を解説します。
目次
合同会社とは?
まずは合同会社の起源や近年の設立件数を整理します。
合同会社の起源はアメリカで誕生したLCC
日本では2006年5月の新会社法によって合同会社が導入されましたが、そのモデルとなったのがアメリカのLLCです。LLCは「Limited Liability Company」の頭文字を取った略称で、1977年にアメリカのワイオミング州で初めて法制化されました。
LLCの特徴は、発生した利益に対し、直接当該の法人には課税されず、その利益の配分を受けた出資者、構成員等に課税されるパススルー課税(構成員課税)を選択できる点にあります。当初は租税の取り扱いが不明瞭で敬遠されていたようですが、1997年にIRS(アメリカ合衆国内国歳入庁)が、法人としての課税か、パススルー課税(構成員課税)かを選択する「チェック・ザ・ボックス規則(チェック・ザ・ボックス・方式)」を導入したことで、二重課税を回避できる使い勝手の良い企業形態として認識されるようになり、全米でも拡大しました。
LLCと日本の合同会社の違い
日本の合同会社はLLCをモデルに導入されており、相互に人的信頼関係を有し、日常的に会合できる少人数の者が出資して共同で事業を営むことを予定した会社類型である持分会社に分類されます(持分会社の説明は後述します)。
先述した点や有限責任である点などはLLCと共通ですが、パススルー課税が選択できない点がLLC大きな違いです。
合同会社の設立数は年々増加している
合同会社の設立件数は、2007年は約6,000社程度で法人全体の10%にも満たない割合でしたが、2012年には10,000社を超え、それ以降も増加し続け、2020年には33,236社となっています。法人全体や株式会社の設立件数と比較しても増加率は高いことから、合同会社の設立には色々とメリットがあると考えることができるでしょう。
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合同会社設立総数 |
株式会社設立総数 |
法人設立総数 |
2016年 |
23,787 |
90,405 |
114,343 |
2017年 |
27,270 |
91,379 |
118,811 |
2018年 |
29,076 |
86,993 |
116,208 |
2019年 |
30,566 |
87,871 |
118,532 |
2020年 |
33,236 |
85,688 |
118,999 |
参考:e-Stat「登記統計 商業・法人 年次 2020年」
株式会社と持分会社の違い
合同会社は持分会社という会社類型に含まれますが、株式会社と持分会社の違いを整理します。
株式会社と持分会社の違い
株式会社と持分会社の大きな違いは、所有と経営が分離するか、一致するかという点になります。会社は事業に必要な資金を提供する出資者がいて、実際に事業を行う経営者がいることで成り立ちますが、この出資者と経営者が分離しているのが株式会社であり、出資者が経営者と一致するのが持分会社となります。
持分会社は、合名会社、合資会社、合同会社の3つに分類できますが、それぞれの違いは社員の責任が有限か、無限かという部分になります。
持分会社の中でも合同会社が人気な理由は有限責任であること
有限責任とは、会社の負債に対して出資額の範囲内で責任を負うことをいい、無限責任とは出資額の範囲を超えて責任を負うことをいいます。持分会社の中で、合同会社が人気な理由は出資者である社員が有限責任である点が大きいといえるでしょう。
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合同会社設立総数 |
合名会社設立総数 |
合資会社総数 |
2016年 |
23,787 |
93 |
58 |
2017年 |
27,270 |
104 |
58 |
2018年 |
29,076 |
87 |
52 |
2019年 |
30,566 |
48 |
47 |
2020年 |
33,236 |
34 |
41 |
参考:e-Stat「登記統計 商業・法人 年次 2020年」
合同会社と株式会社の3つの大きな違い
合同会社と株式会社の3つの大きな違いを整理しました。
出資者と経営者の関係(所有と経営の関係)
合同会社と株式会社の大きな違いは出資者と経営者の関係の違いです。上場企業など大規模な株式会社の場合、出資者である株主と経営者が基本的に一致しません。株式会社には、取締役会など色々な機関があり、その機関が出資者のために経営を行っています。このことを「所有と経営の分離」といいます。ただ中小企業の場合、出資者と経営者が一致することは珍しくありません。
合同会社は、出資者全員が原則として業務執行権を持っています。従って、株式会社と異なり、出資者と経営者が一致しています。
株式会社の場合、代表取締役や取締役という機関がありますが、合同会社にはありません。合同会社の場合、代表社員や社員と呼ばれます。社員というと、その会社で働く従業員のイメージがあります。しかし、合同会社では、社員はその会社に出資した人=所有者=経営者の意味があることに注意してください。
取締役と監査役の設置に関するルール
株式会社は、取締役が原則2年と監査役が原則4年との任期が決まっています。定款に定めれば、それぞれ最大10年まで伸ばすことができますが、10年後には役員改選の手続きが必要になってきます。
株主総会を開催し、議事録を残し、たとえ同じ人が継続して役員になる場合でも、重任という形で登記を行う必要がありますので、少人数で会社経営をする場合はなかなかの手間暇となるでしょう。
なお、2006年の会社法改正で、株式会社でも監査役を置かないことができるようになり、以前よりも自由な機関設計ができるようにはなっていますが、取締役の改選は必須になるので、将来的に1人で会社経営をしていく場合には手間が発生することをあらかじめ知っておくことが必要でしょう。
一方で合同会社は役員の任期が設ける必要がないため、役員改選でかかる手間と費用を削減することができます。
決算公告の有無
株式会社では毎年の決算公告が義務付けられていますが、合同会社にはその義務がありません。決算公告とは、株主総会後に、会社の定款に示した方法によって財務情報の開示を行うことです。
決算公告の開示方法は色々ありますが、この公開した決算書を官報へ掲載するために、毎年約6万円の費用が必要となります。合同会社の場合、こういった開示に伴う手間暇や費用の負担がありません。
合同会社のメリット
合同会社のメリットを整理しました。
株式会社よりも最低12万円ほど安く設立できる
合同会社は、株式会社の設立に比べて設立に必要な費用が少なくて済むという特徴があります。会社設立を自分で行う場合の主な費用は次の通りです。また、下記以外に手続きに必要な会社実印など雑費も発生します。
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合同会社 |
株式会社 |
定款の収入印紙 (電子定款は0円) |
40,000円 |
40,000円 |
定款の認証手数料 |
0円 |
30,000円~50,000円(※1) |
定款の謄本手数料 (登記申請用) |
0円 |
約2,000円(※2) |
登録免許税 |
60,000円(※3) |
150,000円(※3) |
合計 (電子定款の場合) |
100,000円 (60,000円) |
222,000円~ (182,000円) |
※1:資本金が100万円未満であれば、30,000円、100万円~300万円未満であれば、40,000円、300万円以上は50,000円になります(公証人手数料令35条)。
※2:1ページ250円、おおむね8ページで算出。
※3:60,000円(150,000円)もしくは資本金額×0.7%のうち高いほうを支払う。
なお、株式会社には取締役や監査役などの役員改選があり、改選時に重任登記が10,000円発生します。他にも官報に掲載して決算公告を行う場合は、官報掲載費が60,000円必要となりますので、合同会社のほうが設立時はもちろん設立後のコストも抑えることができるでしょう。
株式会社よりも設立手続きが簡単
合同会社も株式会社も設立時に定款は必要になりますが、合同会社は公証人役場での定款の認証手続きは必要ありません。認証の手数料が最低でも30,000円かかることは前述しましたが、公証人役場の手続きのために役場と日程調整等も必要となります。そのため、こちらがスムーズに言った場合でも、株式会社のほうが設立まで1週間程度長くかかってしまうでしょう。
株式会社よりも経営の自由度が高い
合同会社は出資比率に関係なく利益配分が可能で経営の自由度が高いです。そのため、優秀な社員の利益配分比率を高く設定することも可能です。
株式会社の場合は、必ず出資比率に応じて利益を配分する必要があるので、出資金が多い人が多く利益を受け取り、出資金が少ない人は取り分が少なくなります。しかし、合同会社では出資比率に関係なく、社員間で自由に利益の配分を行うことができることがメリットといえるでしょう。
株式会社よりもスピーディーな経営判断ができる
合同会社は、株式会社に求められる機関設計など面倒なルールは要求されません。会社の運営方針などは定款に定めれば自由に組織を運営することができます。
例えば、株式会社では重要な経営行動を起こす場合、取締役会や株主総会などの手続きをとる必要があり、実行するまでに非常に時間がかかってしまいます。その点合同会社では、社員の間で合意が取れれば問題なく、スピーディーに経営判断をすることができます。
株式会社の株主と同じく合同会社の社員も有限責任である
合同会社の社員は株式会社の株主と同じく有限責任です。会社の債権者に対する所有者の責任は、「無限責任」と「有限責任」の二つがあります。
・無限責任
…会社の債務を会社が支払うことができなかった場合に、その債務不履行部分について、会社の所有者が無制限に支払う責任
・有限責任
…会社の債務を会社が支払うことができなかった場合に、その債務不履行部分について、限定的に会社の所有者が支払う
有限責任は、会社に出資した範囲を上限として責任を負います。資本金などで出資したお金は一切戻ってきませんが、それを超えて請求されることはありませんので、事業にチャレンジしやすいと言えるのではないでしょうか。
株式会社と異なり役員任期の更新が必要ない
合同会社では、原則として社員全員(業務執行社員を選んでいる場合には、業務執行社員)が代表権を持っており役員となります。原則任期はなく、業務執行権の喪失、退社、除名などが無い限り、そのまま継続することができます。
なお会社法における株式会社の役員とは、「取締役」「会計参与」「監査役」のことを指します。株式会社の役員には必ず任期があります。通常は2年(監査役は4年)ですが、非公開会社の場合は、最長10年まで伸長することができます。任期満了後も役員を務める場合は、いったん退任した上で重任(再任)の手続きを経ることが必要です。
株式会社の場合、最低でも10年に1回は任期満了後の手続きが必要になりますので、長期的に事業に取り組む気持ちがある場合はこうした手間がない点はメリットとなるでしょう。
株式会社と異なり決算公告の義務がない
株式会社では毎年の決算公告が義務付けられていますが、合同会社にはその義務がありません。決算公告とは、株主総会後に、会社の定款に示した方法によって財務情報の開示を行うことです。
決算公告の開示方法は色々ありますが、この公開した決算書を官報へ掲載するために、毎年約6万円の費用が必要となります。合同会社の場合、こういった開示に伴う手間暇や費用の負担がありません。
合同会社のデメリット
合同会社のデメリットを整理しました。
株式会社に比べて社会的な信用度・認知度が低い
近年は合同会社を目にする機会が増えましたが、まだ認知度が高いとは言えません。特に株式会社の代表取締役にあたる代表社員と名称は聞き馴染みがない方が圧倒的多数といえるでしょう。費用を抑えて設立でき、経営の意思決定をシンプルにできるというメリットがある反面、信用力が弱くなるデメリットがあります。
ちなみに名刺を作成したり、HPを公開したりする際に代表社員という名称ではなく、「代表」「CEO」という表記で代替することは可能であり、代表社員の認知度が低いため、こうした表記をする方が一定数いるのも現実です。
ただし、起業や副業が一般的になってくると、費用面でメリットのある合同会社の認知度は高まってくることが想定され、時代が解決してくれる問題であるともいえるでしょう。
株式会社に比べて資金調達の手段が限定される
合同会社は株式会社と異なり、所有と経営が一致する必要がありますので、資金調達の手段が限定されるというデメリットがあります。株式会社であれば、株式の発行を通じての増資ができますが、合同会社の場合は融資や社債の発行、もしくは国が提供する助成金・補助金に限られます。そのため、大規模の出資が必要になるタイミングでは株式会社への変更を検討する必要もあるでしょう。
出資者(社員)間の対立が経営に悪影響を及ぼす
合同会社は出資と経営が一体化しており、社員同士の関係性が重要な会社形態です。業務運営は原則として社員の同意が必要となります。そのため、社員間で意見の対立が起こってしまうと、かえって適切でスピード感のある経営が難しくなります。特に、利益配分を巡っては対立が起きやすいでしょう。
社員の退社によって資本金が減る場合がある
合同会社では定款に特別の定めのない限り、各社員は基本的に事業年度の終了の時において退社をすることができます。しかし、業務運営方針の違いや利益配分への不満により社員が退社を強く望む場合は、時期に関わらず総社員の同意で退社することができます。
社員が退社する場合は、出資金が払い戻されます。払い戻される持分は、退社時における合同会社の財産の状況に従って計算されます。会社としては資本金の流出となりますので、退社が見込まれる場合には、資金繰りに充分配慮する必要があります。
合同会社と株式会社のどちらを選ぶべきか
合同会社のメリットとデメリットを整理してきましたが、合同会社と株式会社を選ぶ際で着目すべき点をまとめました。
初期投資を抑えるなら合同会社はおすすめ
まずは初期投資を抑えたいのであれば合同会社をおすすめします。特に個人事業主からの法人成りなど、節税対策をメインで法人化を検討している場合や、1人で会社の運営を検討している場合などは、設立後の会社運営で特にデメリットがないため、初期投資を抑えて設立できる合同会社はおすすめでしょう。
少人数の仲間内で起業する場合も、初期投資を抑えたいのであれば合同会社で設立する選択肢は悪くありませんが、社員間の対立や退社が会社に与える悪影響についても十分に把握したうえで検討すると良いでしょう。
合同会社の設立が向くケース
合同会社が向くケースとしては、次のものが挙げられます。
設備投資など大きな資本負担が不要なケース
合同会社は資金調達の手段が限られるため、大規模な出資を必要とする業種にはあまり向いていません。一方で、設備投資などの初期投資があまりかからな業種は、設立費用を抑えられるメリットが大きいため、合同会社としての設立がおすすめです。
個人事業主から節税対策で法人成りするケース
既に個人事業主で活動しており、収益が一定以上を超えた場合は、法人成りした方が節税できる場合があります。そういった際、株式会社も合同会社も税制上で大きな違いはないため、設立費用を抑えられる合同会社がおすすめです。
早期での事業拡大を検討していないケース
当面自分1人で事業に携わっていくなど、早期に事業拡大を検討していないケースも合同会社がおすすめです。設立費用を抑えられることに加え、株式会社に比べて機関設計の手間もないため、とにかくまずは1人で事業を展開していく場合は合同会社での設立がおすすめです。
一般消費者向けのサービス
前述したことに加え、取り組む事業が一般消費者向けの場合(BtoC)は合同会社の設立がおすすめです。事業者向けの場合(BtoB)、合同会社そのものの認知度や信頼度の低さが足を引っ張ってしまうことも想定されますが、一般消費者向けの事業の場合はあまり大きな問題とは言えないでしょう。そのため、設立費用や手間などを考えて合同会社で設立することがおすすめです。
株式会社の設立が向くケース
株式会社が向くケースとしては、次のものが挙げられます。
当初から出資者を募って多くの資本を集めたいケース
設立当初か不特定多数の出資者を募っての資金調達を検討している場合は株式会社としての設立がおすすめです。合同会社は所有と経営が一致するため、資金調達の手段が限られてしまい、会社内部に入る人の資本力に経営が影響されてしまいます。融資や社債の発行、補助金や助成金などを活用することも可能ですが、大規模な資金調達には株式会社のほうが向いています。
ある程度事業が起動に乗った際に事業売却を検討しているケース
将来的な事業売却を検討しているケースでは、株式会社での設立がおすすめです。合同会社では社員が出資者であり経営者であるため、その事業売却が難しくなってきます。株式会社の場合は株主として経営にはタッチせず所有するという方法がありますが、合同会社ではそれができませんので、事業売却は株式会社のほうが比較的行いやすいと言えるでしょう。
合同会社から株式会社への組織変更も可能
合同会社として設立した場合でも将来的に株式会社に組織変更することが可能です。ひとまず大規模な資金調達が必要でないのであれば、合同会社として設立したほうが初期の資金や諸々の手間はかかりません。どうしても株式会社にする理由が見つからない場合、まずは合同会社として設立してしまうという選択もありでしょう。
【まとめ】会社設立の際は合同会社も検討しよう
合同会社は株式会社に比べて設立時の費用が安く、手続き自体も比較的簡単です。法人成りや法人による起業の場合には、合同会社も有力な選択肢です。いったん合同会社として設立した後、会社の成長に伴い、信用度、組織拡大などが必要となると株式会社にも変更することができます。合同会社での会社設立も視野に入れてみてはいかがでしょうか。
この記事の執筆者

久田敦史
株式会社ナレッジソサエティ 代表取締役
バーチャルオフィス・シェアオフィスを通して1人でも多くの方が起業・独立という夢を実現し、成功させるためのさまざまな支援をしていきたいと考えています。企業を経営していくことはつらい面もありますが、その先にある充実感は自分自身が経営をしていて実感します。その充実感を1人でも多くの方に味わっていただきたいと考えています。
2013年にジョインしたナレッジソサエティでは3年で通期の黒字化を達成。社内制度では週休4日制の正社員制度を導入するなどの常識にとらわれない経営を目指しています。一児のパパ。趣味は100キロウォーキングと下町の酒場めぐり。
【学歴】
筑波大学中退
ゴールデンゲート大学大学院卒業(Master of Accountancy)
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