
法人として独立・起業するためには、法人登記を行う必要があります。法人登記を行い会社の情報を公開することで、社会的な信用を得ることが可能です。
法人登記の申請時には、会社の基本事項決定・資本金の支払いなど、多くの準備が必要で、難易度が高く感じるかもしれません。しかし、必要事項を確認し、順を追って準備を行うことで、専門知識がなくても滞りなく申請できます。
当記事では、法人登記の概要と申請手順から、法人登記後に取得できる登記簿謄本・登記事項証明書の違いまで、分かりやすく解説します。法人設立を考えている方は、ぜひ参考にしてください。
目次
1.「法人登記」とは?
法人登記とは、商号や名称・事業目的・代表者氏名など、法人に関する基本情報を公的な記録として登録・公開する制度のことです。法人登記を行って初めて法人格を得られることから、登記を行った日付がその会社の設立年月日とみなされます。
登記申請情報は、法務局職員が専門的な見地から審査を行った上で、データとして記録されます。登記した情報を広く公開することで、対外的な信用力が上がるでしょう。
1-1.法人登記を行うタイミングについて
設立登記は、会社や法人の設立から2週間以内に行うように法律で義務付けられています。詳しいタイミングは、下記の通りです。
第九百十一条 株式会社の設立の登記は、その本店の所在地において、次に掲げる日のいずれか遅い日から二週間以内にしなければならない。
一 第四十六条第一項の規定による調査が終了した日(設立しようとする株式会社が指名委員会等設置会社である場合にあっては、設立時代表執行役が同条第三項の規定による通知を受けた日)
二 発起人が定めた日(引用元:電子政府の総合窓口e-Gov「会社法(平成十七年法律第八十六号)」https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=417AC0000000086#6257)
会社設立以降でも、次のような状況が起こった時は、変更登記を行う必要があります。
- 役員変更:役員の辞任・就任が生じた際。
- 住所変更:本店住所の変更が生じた際。
- 法人の解散時:清算人を選任した際・清算が結了した際。
2.【準備~申請後まで】法人登記申請の手順
滞りなく法人登記の手続きを進めるためには、十分な事前準備が不可欠です。商号や資本金額・会社の形態といった設立事項を決定し、必要な手続きを済ませておかなければ、登記を行うことができません。
ここでは、法人登記の事前準備から実際に申請を行うまでの大まかな流れを紹介します。
2-1.【申請準備①】会社の基本事項を決定する
法人登記を行う前にはまず、会社の形態を検討します。以下のうち、適した設立形態を選択しましょう。
- 株式会社:資金調達が行いやすく、取引先から信頼を得やすい形態。
- 合同会社:出資金の負担者全員を有限責任社員とし、平等な持ち分にて組成する形態。
会社の形態としては、上記2つの他に合名会社・合資会社があります。しかし、これらは無限責任という、会社の有事に出資した金額以上の責任をとる必要がある形態であり、選択されることはほとんどないでしょう。
ここからは、株式会社の発起設立を想定し、手続きの手順を説明します。以下の内容に関して、会社の基本事項を検討しましょう。
発起人(株主)の選定 | 定款作成・資本金の払込など、設立に際する手続きの主導者(発起人)を選定します。 |
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商号(社名)決定 | 商号には平仮名・カタカナ・ローマ字の使用が可能です。 ただし、法人登記の商号を英語のみにすることはできません。 |
法人印鑑の作成 | 会社実印・会社銀行印・角印など、企業として使用する印鑑を作成します。 |
資本金額の決定 | 資本金とは、会社を運営する上で、会社の財力を証明するものです。株式会社は資本金は1円から設定可能ですが、創業融資金額や会社の信頼度に関わることから、最低でも100万円以上に設定することをおすすめします。 一般的には300万円から500万円程度に設定されることが多いです。 |
本店所在地の決定 | 自宅や賃貸マンション、ビル、バーチャルオフィス(レンタルオフィス)など、登記上の本店住所を決定します。 |
基本事項の決定後、定款作成・認証と銀行口座への資本金払込を行います。定款とは、法人の基本事項を集約した規定集です。本店所在地である都道府県の公証役場に提出し、認証を受けてください。
2-2.【申請準備②】登記に必要な書類を揃える
次に、法人登記の必要書類を揃えます。設立登記を行うためには、次の書類が必要です。
設立登記申請書 | 商号や本店所在地・登記の事由などを記載する書類です。 法務省のサイトからダウンロードし、必要事項を記入します。 ただし、登記すべき事項を保存した電磁的記録媒体を提出することで、申請書の一部としてみなしてもらうことも可能です。 |
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定款 | 会社のルールを定めた規定集です。 提出できる定款は、公証人の認証を受けたものに限ります。 |
登録免許税納付用台紙 | 登録免許税額分の収入印紙を購入し、A4サイズの用紙に貼り付けて提出します。 |
発起人決定書 | 法人登記の商号や本店住所を発起人が決定したことを示すための書類です。 |
就任承諾書(取締役・代表取締役・監査役) | 取締役(代表取締役・監査役)就任承諾を示すための書類です。 |
取締役の印鑑証明書 | 個人が自治体に登録している実印の届けです。 法人登記には、取締役全員分の印鑑証明書を提出します。 |
印鑑届書 | 会社実印の届け出を行うために必要な書類です。 |
資本金の払込証明書 | 資本金払込の際にもらえる、振り込みを証明する書類です。 |
2-3.【申請】法務局へ申請する
登記に必要な書類を揃えた後は、本店所在地管轄の登記所(法務局)に提出して申請を行います。登記所の窓口で直接申請できるほか、郵送・オンラインによる申請が可能です。
登記を行ってから1週間程度で、法人番号指定通知書が発送されます。本店所在地のポストに仮看板を設置するなど、受取を行えるようにしておきましょう。通知書を紛失したとしても、名称や所在地を検索条件とし、国税庁法人番号公表サイトにて検索できることから、再交付はされません。
また、登記を行ってから1週間程度で、法人の基本情報が法務局のサイトへと掲載されます。掲載に関してのお知らせは来ないため、掲載の有無は直接サイトで確認しましょう。
2-4.【申請後】今後の経営に必要な手続きを行う
法人として活動するためには、社会保険や税金など、今後の経営に必要な手続きを行う必要があります。設立登記完了後には、次の手続きを行ってください。
提出先:年金事務所 | |
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提出書類 | 備考 |
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妻や子供を被扶養者とする場合は「健康保険被扶養者(異動)届」も提出しましょう。 |
提出先:税務署 | |
提出書類 | 備考 |
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左記のほか「青色申告書の承認の申請」「源泉徴収の納期の特例の承認に関する申請書」棚卸資産の評価方法の届出書」「減価償却資産の償却方法の届出書」を必要に応じて提出します。 |
提出先:本店所在地の都道府県税事務所・市町村役場 | |
提出書類 | 備考 |
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提出書類や手続き方法詳細は、各自治体によって異なるため、問い合わせる必要があります。 |
3.法人登記後に取得できる「登記簿謄本」と「登記事項証明書」の違い
重要な契約や取引を行う際には「登記事項証明書」の提出を求められます。登記事項証明書とは「登記情報のデータ・もしくはそのデータを印刷した書面」のことです。
似た名称の書面に「登記簿謄本」があります。登記簿謄本は、「登記情報を紙に手書きで書いた書面」のことです。
混同されがちですが、登記事項証明書と登記簿謄本の違いは「コンピューター処理されているか手書きか」というだけで、内容は全く同じものです。
現在では、登記の情報は全てデータ化され、手書きでは保存されないため、登記簿謄本を使うことはほとんどありません。登記簿謄本の取得を頼まれた際は、登記事項証明書を提出しましょう。
登記事項証明書は、登記所または法務局証明サービスセンター窓口・郵送・オンライン請求により、代表者・従業員はもちろん、社外の人でも自由に取得できます。社内利用であれば、登記情報サービスを活用し、登記情報の閲覧だけを行うことも可能です。
3-1.登記事項証明書(登記簿謄本)が必要になるケース
登記事項証明書が必要なケースとして、下記があげられます。
役員変更などで登記を変更する時 | 確認資料として使用する。 |
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決算申告をする時 | 資本金や発行可能株式総数の情報が正しいかの確認資料として使用する。 |
金融機関から融資を受ける時 | 会社の申告内容が正しいことを証明する書類として、金融機関に提出する。 |
補助金・助成金の申請を行う時 | 会社の申告内容が正しいことを証明する書類として、国や自治体に提出する。 |
上記のほか、オフィスの契約の際などに、会社の証明として登記事項証明書の提出を求められる場合があります。
まとめ
法人登記の際は、申請書類を揃えるだけでなく、会社や法人設立に向けた資金準備も必要です。法人登記費用や収入印紙代、定款認証手数料の合計金額では、20万円から25万円程度と、まとまった費用が必要です。このほか、司法書士報酬や各種印鑑の新調代金、オフィスの契約手数料なども、事前に用意しておきましょう。
なお、法人登記の際に必要な各種手続きや必要書類は、定期的に改訂されます。法人登記の準備を行う際には、最新の規定を確認するか、本店所在地の地方自治体などへの問い合わせ行いましょう。
この記事の執筆者

久田敦史
株式会社ナレッジソサエティ 代表取締役
バーチャルオフィス・シェアオフィスを通して1人でも多くの方が起業・独立という夢を実現し、成功させるためのさまざまな支援をしていきたいと考えています。企業を経営していくことはつらい面もありますが、その先にある充実感は自分自身が経営をしていて実感します。その充実感を1人でも多くの方に味わっていただきたいと考えています。
2013年にジョインしたナレッジソサエティでは3年で通期の黒字化を達成。社内制度では週休4日制の正社員制度を導入するなどの常識にとらわれない経営を目指しています。一児のパパ。趣味は100キロウォーキングと下町の酒場めぐり。
【学歴】
筑波大学中退
ゴールデンゲート大学大学院卒業(Master of Accountancy)
【メディア掲載・セミナー登壇事例】
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