
社労士として独立開業を検討している方はいませんか?
社労士こと「社会保険労務士」とは、社会保険や労働問題のプロフェッショナルで、人気・需要共に高い職業です。保険に係る手続き及び、労働社会保険諸法令に係る帳簿書類の作成などの独占業務や、顧客に対するコンサルティングは、独立開業にも非常に向いており、数多くの方が事業を立ち上げています。
一方で、社労士として仕事をするには「勤務社労士」として働くという選択肢もあります。
「開業社労士」と「勤務社労士」にはそれぞれ特徴があり、それらを正しく理解することは、独立開業するか否かを検討するために非常に重要です。
当記事では、開業社労士と勤務社労士の違いや特徴、開業の流れなどを解説しているため、是非参考にしてください。
目次
社労士は「開業社労士」と「勤務社労士」に分けられる
一言で「社労士」と言っても「開業社労士」と「勤務社労士」とでは大きく実態が異なります。
「開業社労士」とは自身で開業を行い事業主として仕事を行う社労士を指します。
一方で「勤務社労士」とは、企業に勤務をする専属の社労士のことで、通常のサラリーマンと同様に給与所得を得る形態です。
社労士として働くには、このいずれかの形態を選択することとなりますが、人口を比較すると開業社労士が多数を占めます。
大阪大学の「専門士業の『専門性』形成のモデル構築:社会保険労務士を手がかりとして」によると、社労士として従事する方の内、開業社労士の割合が約67%(副業ありの開業社労士を含めると約85%)という結果が出ています。一方で、企業官公庁勤務社労士及び、社労士事務所・社労士法人勤務社労士は約15%と少数です。
この結果を見ても、社労士として働く際は、開業するという選択肢が非常にメジャーであることが分かります。
一点、当調査は社労士会の会員名簿に登録されている社労士が対象になっています。そのため「社労士試験に合格はしているが社労士会への登録はせず、企業勤めをしている」という方は含まれていない点に注意が必要です。
開業社労士のメリット・デメリットとは?勤務社労士との違いを解説
社労士の多数を占める開業社労士ですが、勤務社労士とは大きく特性が異なります。
この2つの違いを知らないまま開業してしまっては、後悔してしまう可能性もあります。開業後に後悔しないためにも、ここでそれぞれの特徴をしっかりと理解しましょう。
開業社労士となるメリット3選
個人事業主である開業社労士には、給与所得者である勤務社労士にはない多くの魅力が存在します。
ここでは、開業社労士として働くメリットを、勤務社労士と比較しながら3つ紹介します。
成果を上げた分だけ収入が上がる
開業社労士の魅力の1つとして「成果を上げた分だけ収入も増加する」ことが挙げられます。
開業社労士が得る所得は事業所得のため、自身の業績が収入に直結します。つまり、業績の成長に比例するように自身の収入も増加するのです。実際に1,000万円以上の高所得を実現している人も数多くいます。
一方で勤務社労士の場合、あくまでもサラリーマンとして給与所得を得る立場となります。そのため、自身がどれだけ成果を上げようとも、それに伴って急激に収入が増加することは少ないでしょう。
自分の実力を発揮して、それを収入に反映させたいという方は開業社労士がおすすめです。
ワークライフバランスを実現しやすい
開業社労士となると、自身の裁量で仕事を進めることができます。働く時間も自身のペースに合わせることができるのです。
例えば、子育てや介護など、プライベートで外すことができないシーンでは、プライベートを優先させることができます。他にも、仕事の進捗を調節して、まとまった休みを得るなども可能です。
現在、フレックス制や週休3日制の導入など、ワークライフバランスの実現を行っている会社も増加しています。しかし、他の社員や仕事のスケジュールなどの兼ね合いを考えると、開業社労士の方が自由度が高いと言えるでしょう。
やりがいを感じやすい
勤務社労士は、第三者から報酬を得て仕事をすることができません。あくまでも勤めている企業の専属となります。
一方で、開業社労士にはそのような制限はありません。数多くのクライアントを担当することが多々あります。
多くのクライアントを相手にすることは、それだけ多くの方とコミュニケーションを取るということです。その中で様々な価値観に触れることで、自己成長に繋がるでしょう。
また、多方から感謝されるシーンも多く、それが仕事のモチベーションに繋がることもある点も魅力です。
開業社労士のデメリット3選
開業社労士には、他にはない魅力がある一方で、デメリットも存在します。
ここでは、開業社労士のデメリットを、勤務社労士と比較しながら3点解説していきます。
収入が安定しない可能性がある
開業社労士のメリットとして「成果を出した分だけ収入が増加する」と解説しましたが、反対に言えば「業績が上がらなければ収入を得ることができない」とも言えます。
開業社労士は業績によって自身の収入が決定します。そのため、業績が良い時は勤務社労士よりも多くの収入を得ることができる一方で、業績が落ちたら、収入も大きく減少するのです。
一方で、勤務社労士の場合、いわゆるサラリーマンとして給与所得を得ることができるため、業績に関わらず一定の収入を得ることができます。
そのため、もし安定性が最重要と考えるのであれば、勤務社労士の方が向いている可能性があると言えるでしょう。
営業活動が必要になる
勤務社労士の場合、特定の会社の専属であるため、会社内で仕事が与えられます。そのため、1から仕事を見つける必要はありません。
一方で、開業社労士の場合、顧客を自身で見つける必要があります。そのため、社労士の本来の業務以外にもマーケティングに係る知識も身に付ける必要があるのです。
顧客の有無は業績へ直結するため、営業活動に不安がある人は重点的に対策をするべき点と言えます。
必要な手続きが多い
個人事業主として開業すると、会社員にはない様々な手続きを行う必要があります。
例を挙げると確定申告です。
勤務社労士の場合は、会社が源泉徴収を行い、年末調整という形で税金の清算を行うため、特別な事業が無い限りは確定申告をする必要がありません。
しかし開業社労士の場合、自身で帳簿を付けて確定申告を行う必要があります。帳簿の知識や膨大な作業量を要する手続きのため、苦手としている事業者は多いです。
他にも開業に係る手続きで各種機関へ足を運ぶ必要があるなど、自身で行わなければならない手続きは非常に多くなっています。
もし、自身で行うことが難しいのであれば、税理士等のプロに依頼することも1つの手段でしょう。
社労士の年収はどのくらい?
開業社労士と勤務社労士の年収が気になる方も多いのではないでしょうか。
大阪大学の「専門士業の『専門性』形成のモデル構築:社会保険労務士を手がかりとして」によると、開業社労士の年収(課税前)の中央値は400万円から500万円となっています。
しかし、300万円未満の方が約26%、1,000万円以上の方が約13%と大きくばらつきがあります。そのため、平均の年収はあまり気にせずに、自身が成果を出した分だけ多くの収入を得ることができると考えておくと良いでしょう。
一方で、勤務社労士の年収の中央値は600万円~700万円となっています。開業社労士と比較した際に、年収のばらつきが少なく、安定していることが分かります。
未経験でも社労士として独立開業はできる?
中には「勤務経験を経ないで、社労士として独立開業をしたい」という方もいるでしょう。
未経験の状態で独立開業することは、制度上可能です。
しかし、勤務社労士を経験すると、収入を得ながら社労士としてのノウハウを獲得することができます。そのため、独立開業時も既に社労士の業務について理解している状態で経営をスタートさせることができるのです。
実際に勤務社労士を経て開業社労士となっている方は多いため、経験不足が不安な方は勤務社労士からスタートして、独立に備えることも有効な選択肢です。
社労士で独立開業するための流れとは
開業社労士になると決断したら、開業するための様々な手続きを行う必要があります。
ここでは実際に独立開業する際の流れを解説します。
社労士資格を取得する
当然ですが、社労士として独立開業するためには社労士資格が必要になります。
社労士試験は年に1回行われており、合格率が約6%前後と、非常に難関な試験です。
独学の他にも各種予備校等もあるため、自身に合った勉強方法を選びましょう。
事務指定講習を受講する
実は、試験に合格しただけでは社労士登録はされません。つまり、社労士と名乗ることはできないのです。
社労士試験に合格した場合、以下のいずれかの要件を満たすことで社労士名簿への登録が可能となります。
・2年以上の実務経験を有する者
・事務指定講習の受講を行った者
つまり、既に2年以上の実務経験がある方は問題ありませんが、そうでない方は2年間の実務を経験するか、事務指定講習を受講する必要があるのです。
事務指定講習とは、約4ヵ月に渡る長期の講習で、通信指導と面接指導が実施されます。この講習を受講することによって、2年以上の実務経験と同義に扱われ、社労士名簿への登録が可能となるのです。
事務指定講習では77,000円の費用が発生する点を留意しましょう。
社労士名簿への開業登録を行う
社労士として開業するためには、社労士名簿へ登録する必要があります。
一概に登録と言っても「開業登録」「勤務登録」「その他登録」の3種類があり、独立開業する場合は「開業登録」を行います。
手続き先は、開業事務所を管轄する社会保険労務士会です。その後全国社会保険労務士連合会に進達され、審査が通れば2週間程度で証票が発行されます。
この手続きの際に、登録免許税や登録手数料、入会金及び年会費の支払が必要です。
入会金や年会費は県によって異なる部分はありますが、トータルすると概ね20万円~30万円程度を要します。
開業準備を行う
社労士登録が完了したら、開業までに十分な準備を行いましょう。
例を挙げると事業計画の作成などです。理想の社労士増やターゲット選定、計業方法等を決定します。
他にも、ホームページや事務所案内の作成など、開業前から宣伝に力を入れるようにしましょう。
また、最初は自宅で開業するという方は多いですが、事務所を借りる場合は立地にも注意する必要があります。その地域の地域性の分析や競合他社のリサーチなどを行い、自身の事業計画にマッチする事業所を選ぶことが大切です。
開業手続きを行う
入念な開業準備を行ったら、実際に開業手続きに移ります。
独立開業をする際、多くの場合は個人事業主として開業を行います。
開業の際に必要な手続きは大きく分けると2つです。ここでは、実際に開業する際に最低限行う必要がある手続きを確認しましょう。
税務署へ開業届を提出する
個人事業主となる際に必須の手続きは、管轄の税務署への開業届の提出です。開業から1ヵ月以内に提出する必要がある届出のため、忘れずに手続きを行いましょう。
この際、開業届に屋号を記載することで、屋号の登録ができます。屋号を登録すると屋号付き口座の開設などが可能となるため、記載の上、必ず控えを貰いましょう。屋号付き口座については詳しく後述しています。
管轄の税務署とは、原則として住民票に登録されている住所を管轄する税務署です。事業所を設ける場合、事業所の住所を管轄する税務署と勘違いされやすいので注意しましょう。なお、事業所を納税地とする場合は納税地の変更に関する届出書の提出が必要となります。
また、同時に青色申告承認申請書の提出を行うと良いでしょう。青色申告を行うことによって最大65万円の所得控除を含む様々な特典を受けることができるため、申請することをおすすめします。
青色申告のメリットやデメリットなどは以下の記事で詳しく解説しているため、是非参考にしてください。
参考:起業したら青色申告を活用しよう~個人事業主・法人が青色申告をするメリット・デメリットを解説~
市区町村役場へ各種社会保険加入の手続きを行う
会社に雇用されている場合、厚生年金への加入となっており、健康保険も会社のものに属していることがほとんどです。
しかし個人事業主になると、原則として、国民年金と国民健康保険に切り替わります。そのため、管轄の市区町村役場に加入手続きを行いましょう。
なお、この手続きは、既に国民年金及び国民健康保険の加入者だった場合は不要となっています。また、健康保険については、以前の健康保険の任意継続を行うという選択肢もあるため、自身に合った制度を選択しましょう。
開業後にやるべきこととは
上記の流れで個人事業主としての開業は可能です。
しかし、開業後にもやるべきことがいくつかあります。これらは義務ではありませんが、行うことにより事業を有利に進めることが可能です。
ここでは、開業後にやるべきことを2つ紹介します。
屋号付き口座の開設
事業を開業したら、屋号付き口座を開設しましょう。
屋号付き口座とは、その名の通り、自身の事業の屋号が名義に入った銀行口座です。
屋号付き口座を開設することによって、確定申告の手続きが容易となり、更にはクライアントから事業への信頼感も増します。
開設の手続きには開業届の控え等が必要など、多少の手間はかかりますが、それ以上に多くのメリットがあるため、活用することをおすすめします。
屋号付き口座の特徴や手続きなどは、以下の記事に詳しくまとめているため参考にしてください。
参考:個人事業主が開設できる屋号口座(屋号付き口座)とは?メリットと開設方法を解説します!
屋号印の作成
屋号付き口座の他にも、屋号が入った印鑑(屋号印)を作成することもおすすめします。
こちらも必須ではありませんが、屋号印を使用することによって事業への信頼感が増し、更には事業に箔を付けることもできます。
もちろん、自身の個人の印鑑であっても事業は可能ですが、このような細かい点で仕事に繋がるか否かが分かれる場合もあるので、是非活用してください。
社労士は自宅開業が可能?
税理士や弁護士など、多くの士業では事務所の要件が定められています。
しかし、社労士にはそのような制限はなく、自宅であっても開業することが可能です。実際に自宅開業している社労士も一定数存在します。
しかし、自宅での開業にはメリットとデメリットがあるため、これらを理解した上で登録する事業所を選択しましょう。
自宅開業のメリットとは?
自宅開業の最大のメリットは、家賃が発生しないという点です。
月々の家賃が発生しないことで、毎月の固定費が抑えられ、利益率が増加します。
また、通常事務所を賃貸する際は、敷金礼金や保証金などで、家賃の10ヵ月分程度を要することが多いです。しかし自宅開業の場合は初期費用も掛からず、リスクを抑えて開業が可能となります。
他にも、移動に係る時間や手間が無いため、育児や介護などのプライベートな用事にも柔軟に対応することが可能です。
自宅開業のデメリットは?
一方で自宅開業を行うことによるデメリットもあります。
まずはプライバシーの問題です。社会保険労務士会に登録を行うと、その登録された住所や名前が公開されます。そのため、自宅での開業となると自身の居住地が公開されてしまうのです。
また、しっかりとした事業所の住所に比べて、自宅の住所は事業への信頼感が薄い傾向にあります。似た条件の競合他社がいる場合、最後は住所から伺える信頼性が決め手となって、顧客が他社に流れてしまう可能性もあるのです。
バーチャルオフィスを使用するという選択肢
自宅開業のメリットを維持しつつ、デメリットを解消する手段として、バーチャルオフィスの活用があります。
バーチャルオフィスとは、その名の通り仮想の(virtual)事務所(office)のことです。その仮想の事務所となる住所を、事業用の住所として使用することができます。
つまり、バーチャルオフィスを活用することによって、自宅以外の信頼性のある住所を手に入れることができ、プライバシーも守ることが可能となるのです。
また、費用も実際に賃貸するよりも断然安価であり、月々数千円で利用をすることができます。
他にも企業によって様々なサービスがあり、荷物の受取や転送、電話サービスなどが挙げられます。
他にも会議室のレンタル制度を備えている場合もあり、定期的に場所を要するような場面で活用することも可能です。
バーチャルオフィスは自宅開業者にとって、大きな味方となるサービスのため、検討してみてはいかがでしょうか。
まとめ
一概に「社労士」と言っても「開業社労士」と「勤務社労士」とがあります。
それぞれにメリットとデメリットがあり、これから開業を考えている方はそれぞれの特徴を必ず理解した上で選択を行いましょう。
当記事では「開業社労士」と「勤務社労士」の違いや特徴、開業の流れなどを解説しました。社労士として開業を検討している方は是非参考にしてください。
また、開業を検討されている方の中には自宅での開業を検討している方もいるでしょう。
自宅での開業は固定費の削減に繋がる一方で、プライバシーや信頼感の問題があります。
そこで、それらのデメリットを解決する方法として「バーチャルオフィス」の活用が挙げられます。
バーチャルオフィスを活用することによって、自宅開業の恩恵を最大限に受けることができるため、是非検討してみてはいかがでしょうか。
この記事の執筆者

ナレッジソサエティ編集部
ナレッジソサエティ編集部
2010年設立の東京都千代田区九段南にある起業家向けバーチャルオフィス「ナレッジソサエティ」です。2010年からバーチャルオフィス・シェアオフィス・レンタルオフィスの専業業者として運営を行っております。バーチャルオフィスのこと、起業家に役立つ情報を配信しています。「こういう情報が知りたい」といったリクエストがあれば編集部までご連絡ください。
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