
起業後の倒産リスクは、大きく財務・人間関係・法律といった領域に分けられます。これらの三大リスクを抑えるために、まずはその原因を把握しておくことが大切です。
起こり得るリスクを把握したうえで、最小限に抑えるリスクヘッジをしておきましょう。この記事では、起業失敗の現状や、それぞれの領域ごとのリスクおよびその対処法について解説します。
1.起業後の倒産社数の現状
会社経営において最も重要かつ困難なことは、会社を存続させることです。
市場は厳しい競争にさらされているため、企業によっては廃業に追い込まれてしまうこともあります。
リーマンショック以降、倒産する企業件数自体は減っていますが、それでも倒産している企業があることも事実です。
そのため、各企業は後述する企業の抱えるリスクを理解し、倒産を未然に防ぐリスクヘッジが必要となります。
まずは具体的な数値を交えて、会社経営の実情をお伝えします。
中小企業庁が平成29度に発表した「中小企業白書」によると、起業後の企業生存率は1年後で約95%、5年後で約82%となっています。
また、令和元年に東京商工リサーチが発表したデータによると、令和元年上半期に倒産した企業件数(負債1,000万円以上)は、3,991件でした。
倒産する企業の割合は、上半期においては10年連続の減少となっています。1990年以来、29年ぶりの低水準となっているため、リーマンショック以降、倒産する企業の割合が減ってきていることがわかります。
では、なぜ一部の企業は倒産に追い込まれてしまうのでしょうか。
平成30年度の中小企業庁の発表によると、倒産原因状況は下記の通りです。
- 1位「販売不振(70%)」
- 2位「既往のしわよせ(12%)」
- 3位「放漫経営(5%)」
引用元:中小企業庁 倒産の状況 https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/chousa/tousan/
1位の「販売不振」とは、収益が伸び悩むことによる倒産です。
2位の「既往のしわよせ」は、業績悪化が慢性的に続き、キャッシュ・フローの流れを把握できなかったことによる倒産です。
3位の「放漫経営」とは、経営者の経営・管理能力の欠如や会社の私物化を指します。
調査結果からわかるとおり、倒産理由の約7割が販売不振です。たとえ売上を伸ばしていても、必要経費がそれを上回れば業績は赤字となってしまい、倒産に追い込まれる可能性があります。
2.財務面のリスクと対処法
経営者として、起業後の経営を続けていくためには、財務面で起こり得るリスクを事前に察知しておかねばなりません。財務面は、取引先や金融機関との信用関係に直結するため、徹底したリスクヘッジを普段からしておきましょう。
ここでは、財務面で起こりうるリスクと、リスクヘッジのための対処法について解説します。
2-1.家賃や給料
事業開始後には、電気代や通信費といったランニングコスト(経営維持に必要となる費用)を支払い続ける必要があります。特に割合が大きい部分が、家賃や従業員の給料です。
事務所が無ければ、当然、事業を行うことができないため、事業で使用する事務所に家賃を支払わなければなりません。
また、企業を発展させるためには従業員の存在が必須です。売上が立たなければ、会社のために働いてくれている社員やアルバイトに対し、給料を支払うことができません。
従業員やその家族もお金が無ければ生活水準を維持できないため、給与の支払いが滞れば、遅かれ早かれ従業員は辞めてしまいます。
そのため、事業利益に対して、計画性を持って適切な従業員数や家賃を設定し、支払いが滞らないよう注意しましょう。
2-2.借金
会社経営を行ううえで、借金は必須です。借金自体は悪いことではありません。借金という言葉に対してマイナスイメージを抱くかもしれませんが、金融機関からの「融資」も借金の一種です。
借りたお金で設備や技術、人材に投資することで、さらに事業を発展させることができます。事業の発展から生まれた利益を、借金の返済に充てるというのが会社経営の流れです。
ただし当然ですが、借金の返済は約束どおりに進めなければなりません。返済期日の遅れや、返済自体できずに借金を借金で補う、消費者金融を利用するといった手段を取れば、いずれは会社の倒産につながります。
専門家に相談しながら、無理のない借入と返済を心がけましょう。
2-3.仕入れ
特に小売業や飲食業などでは、先に商品を仕入れてから販売します。先に抱えた在庫が売れなければ、売上につながらず、仕入れ代金の支払いも当然できません。
多少の在庫を抱えても耐えられるだけの財務的な体力を持ち合わせておく必要があります。
売れる商品を見抜き、在庫多寡にならないよう売上の戦略を立てていかねばなりません。
また、創業時に仕入れの要らない事業を選ぶこともリスク回避の一手段です。
たとえばIT事業やコンサルティング事業などの在庫を持たない事業であれば、その分リスクを抑えることができます。
3.人間関係のリスクと対処法
会社経営において最も重要なのは、人材であるといわれています。周りとの人間関係を軽視する経営者に成功は待っていません。健全な人間関係を構築するためには、普段からの振る舞いで信頼を得ておく必要があります。
続いては、人間関係で起こりうるリスクと、リスク少なくするのための対処法について解説します。
3-1.従業員
会社経営が成り立つのは、社員やアルバイトといった従業員がいてこそです。
従業員との関係が悪化すれば、人材は流出し、会社を存続させることが難しくなってしまいます。
会社を支えてくれる従業員と、良好な人間関係・信頼関係を築くことが会社経営の鍵と言っても過言ではありません。
従業員に最大限の力を発揮してもらい、会社を発展させていくために「この会社で長く働きたい」、「社長を支えたい」と思ってもらえる会社にしていくことも社長の役割です。
また、従業員同士の関係にも目を配り、みんなが働きやすい風通しの良い環境づくりを怠らないようにしましょう。
3-2.家族や友達
企業が事業不振に陥った際、一番影響を受ける人物は社長やその家族です。家族を生活させていく必要がありますが、それすらできなくなり、離婚など家族との別れを招くこともあるでしょう。
また、友達から借金する、友達と一緒に会社経営するとなれば、経営状況に応じてこれまでの人間関係が崩れてしまうことも起こり得ます。
上記のような最悪の事態には至らないにしろ、会社を優先させるがあまり、友達や家族と過ごせる時間がなくなることも考えられます。友達や家族と会社、どちらを優先するか、自分の価値観と照らし合わせて答えを出したうえで、どの選択肢を選ぶかを考えた方がいいでしょう。
4.法律面のリスクと対処法
創業間もない時期には特に、資金力に余裕が無いため、財務・法律に関する内容について、専門家に頼るだけではなく、経営者自身が把握しておかねばなりません。
税金は知識さえあれば、かえって節税にもつながるため、しっかり押さえておきましょう。
最後に、法律面で起こりうるリスクと、リスクヘッジの方法について解説します。
4-1.税金関連
基本的に、正しく決算書を作成および提出して、定められた金額の税金を納めていければ特に問題は発生しません。会社の利益、従業員や外注先に関する税金に関しても同様です。
税金の納付に対し正しい対応をしていなければ、法人として社会的信用を失うだけでなく、国税局の調査が入ることもあります。もし、税金を支払うだけの資金的余力がないのであれば、延納の申請をすることで、利息や差し押さえのリスクを回避できます。
一方で、十分に利益が出ているにもかかわらず、納税しないケースが一番問題です。常識的な範囲で、節税対策を行うことは大切です。しかし経営者である以上、きちんと責任を持ち、法律に反する税申告などは絶対にやめましょう。
4-2.雇用関連
会社として従業員を雇えば、従業員に給与を支払う義務や雇用条件に応じて社会保険へ加入させる義務が生じます。不当な労働環境で働かせていれば、民法などによる法的責任も生じてくるでしょう。
昨今ではセクハラ・パワハラといった問題にも注意しなければなりません。また、顧客に提供したサービス・商品に問題があれば、補償や賠償責任を負う可能性もあります。
仮に利益を出していて、真面目に企業活動を行っていたとしても、顧客や従業員、同業者とのトラブルにより廃業に至ることもあります。法律面のリスクを把握して、リスクを最低限に抑える対処や判断をしましょう。
経営者個人の知識に限界があるようなら、税理士や弁護士など専門家に相談しておくことが大切です。
まとめ
起業して、事業を継続する際には必ずリスクが生じます。今回紹介したようなリスクを未然に防ぐことで、経営者の望む事業を発展させることができます。
今回の記事では、企業のマイナス面について詳しくお伝えしましたが、起業でしか享受できないメリットも多くあります。リスクを最小限に抑えたうえで、事業発展に取り組みましょう。
この記事の執筆者

久田敦史
株式会社ナレッジソサエティ 代表取締役
バーチャルオフィス・シェアオフィスを通して1人でも多くの方が起業・独立という夢を実現し、成功させるためのさまざまな支援をしていきたいと考えています。企業を経営していくことはつらい面もありますが、その先にある充実感は自分自身が経営をしていて実感します。その充実感を1人でも多くの方に味わっていただきたいと考えています。
2013年にジョインしたナレッジソサエティでは3年で通期の黒字化を達成。社内制度では週休4日制の正社員制度を導入するなどの常識にとらわれない経営を目指しています。一児のパパ。趣味は100キロウォーキングと下町の酒場めぐり。
【学歴】
筑波大学中退
ゴールデンゲート大学大学院卒業(Master of Accountancy)
【メディア掲載・セミナー登壇事例】
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